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心に響く 歌と詩 そして物語を書き綴っています。


by key_bo

はぐれたライオンの物語り 1 -ライオンとかに-

気がつくとライオンは森にいた。

近くを流れる小川の心地よい音、

そして、木立の隙間からこぼれる陽射しが鼻をくすぐる。


「う~ん、僕は何故ここにいるんだろう…?」


そうつぶやいた後、彼は瞳を閉じた。

ふとまぶたに浮かぶのは草原を仲間達と駆ける場面

「ハッ」と眼が覚めた。

現実は違う、今は森の中にいる。

 

彼は歩き始めた。

森の中を小川沿いにあるいた。ひたすら歩いた。

いったい、どのくらい歩いたのか。

あんなに細々とした小川は段々と大きくなり大きな渓流となっていった。

喉が乾いたので水辺に入り水を飲んだ


「ぴちゃぴちゃ、ゴクゴク」


すると、ちいさなかにが歩いているのが彼の目にとまった。

水辺に住む沢がにだ。


「おーい、かにさん。一体ここはどこなんだい?教えておくれよ」


大きなライオンに呼びかけられたかには、ビックリして岩陰に隠れました


「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ、出てきておくれよ」


かには岩陰から顔を出し、覗いてライオンを見ています。


「あなたは、私達のことを食べたりしないの?」


「大丈夫だよ、僕達はお肉しか食べないから」


「よかった。でも、あなたこの森では見かけないわね」


「そうなんだ、気がついたらこの川のずっと上の方にいたんだ」


「かにさん、この森は一体どこまで続いているんだい?知っていたら教えておくれよ」


「私にも分からないわ、ずっとこのあたりに住んでいるからここから先に行ったことがないの」


「そうか、かにさんにも分からないのかぁ・・・。僕さ、もう歩くのに疲れちゃったんだ」


ライオンは苦笑いを浮かべた


「僕がここで休憩しても君が歩く邪魔にならないかい?」


「大丈夫よ、その時はあなたの上を歩いていくからじっとしててくれたらいいわ」


歩きつかれたライオンは水辺で休憩する事にしました。

かにさんは、せっせせっせと横歩きで歩いていきます。そして、住みかの穴を出たり入ったり…
その様子をライオンはずっと見ていました。

自分たちの姿と全く違うその姿や歩き方に妙に感心しながら、彼は見つめていました。

見ているとかにが歩く道にはいつも大きな石があって歩く邪魔になっていました


「かにさん、かにさん。その大きな石が邪魔にならないのかい?」


「そうなの、本当は邪魔なんだけど、私達じゃびくともしないから避けていくしかないの」


「じゃ、僕がどけてあげるよ」


ライオンは大きな手でゴロンと大きな石を動かしました。

でも、動かす時に大きな振動が!


「ドスン、ドスン!ゴロゴロ!ゴロゴロ!」


かにはビックリして巣穴に入ってしまいました。


「おーい、かにさん、大きな石、もうよけたよ。出ておいでよ」


「あー、ビックリした。あなたって力持ちなのね。」


「そんなことないよ」


「ありがとう、これで歩きやすくなったわ」


かにが嬉しそうな笑顔をうかべました。ライオンにはその笑顔が可愛くてたまりませんでした。

そして、彼ははじめて自分が誰かの力になれた気がしたのです。


ライオンはもうしばらくここにいることにしました。

かにのことをずっと見ていたライオンは彼女達が水の中に入っていくのを見ました。

ライオンはかにさんに聞いてみました。


「水の中ってどんな感じなんだい?」


「どんな感じって分からないわ、説明できないもの」


「実は僕、水は飲むけれど水の中に入るのって苦手なんだ」


「でも、水の中って気持いいわよ」


「そうなんだ、僕も勇気出して入ってみようかな」


ライオンは渓流の水がよどんでいるところへ足を入れてみました。


「水って冷たいんだね、でも、かにさんと同じ様に体がつかるくらいのところってもっと中に入らなきゃっダメだよね」


ライオンは渓流の深いところへ行こうとしますが、流れが激しくなってきて

なかなか深いところまで足を踏み入れられません。

それを見ていたかにさんは、


「それ以上、深いところに行くと危ないわ。もうやめておいた方がいいわ」


ライオンは流れに足を滑らせてしまい、水の中へ倒れてしまいました。


「バシャーン!」


驚いたライオンは急いで岸辺に戻りました。

濡れた毛からたくさんの水が滴り落ちます。体をぐるぐるっ、ブルブルっとして

体から水を振り払おうとします。

ライオンの体から飛んできた水滴は、雨粒の様にかにの上に降り注ぎます。


「ざざーっ」


「きゃあ!」


かには勢いのある豪雨のような水滴にビックリして、身を固めました。


「あぁ、かにさん、ゴメンよゴメンよ。大丈夫かい?」


心配そうに、身を固めたまま動かないかにを心配しています。


「あービックリした」


かにが動き始めると安心しましたが、ライオンは自分が動くと
かにに迷惑をかけてしまう気がしてなりませんでした。


「かにさん、僕が動くとかにさんに迷惑をかけてるみたいだね」


「そんなことないよ、ただ、ビックリしただけだから」


ライオンはかにの姿が見えている間はじっとしておこうときめました。

 

彼がここに来てから何日たったころか、嵐がやってきて大雨が降ってきました。

ライオンも木陰の草むらに雨宿りしています。

見ると川の水がふえて、かにの巣穴まで水に浸かろうとしているようです。

かにが避難してでて来ました。2匹の子がにを連れています。
でも、大粒の雨で歩くのが大変そうです。

ライオンは、すかさずかにの親子が歩いているところの上を一緒に歩きました。


「僕が雨宿りしている草むらにおいでよ」


「ありがとう、あなたが雨をよけてくれるのね」


「体の大きい僕にはこんな事しかできないからね」


ライオンは笑って言いました。

木陰の草むらにたどり着くと、体の水を振り払い草むらへ身をひそめました。

かにの親子はライオンが横になって休んでいる前足の隙間に身を隠して
雨が通りすぎるのを待ちました。

そして、子がにたちが眠りついた後、かにとライオンはいろいろお話をしました。

………

次の日の朝になるとすっかり雨もやみ、晴れ間が見えてきました。


「かにさん、もう雨止んだよ」


かにの親子は、ライオンの前足の隙間から出てきました。


「ありがとう、あなたのおかげで助かったわ」


かにの子供達も出てきてライオンにいいました


「ありがとう、ライオンのおじちゃん!」


「ライオンのおじちゃん一緒に遊ぼうよ!」


かにの子供達は、ライオンの体の上を歩いたり
顔のひげを珍しそうにながめたり、大きな口の中を探検ごっこしました。
その間、ライオンはじっとして動かずにいました。
自分が動くと、体の小さなかに達に迷惑がかかると思ったからです。

ひとしきり遊んだかにの子供達は満足して、お母さんの所へ駆け寄りました。


「ねぇねぇ、おかあさん、ライオンさんの体の上って高くって眺めがよくって気持いいんだよ」


「ライオンさんのおひげって、なにするものなの?なんで私達にはないの?」


かにの親子はたくさんたくさんお話をしました。

ライオンはそんな風景を和やかに見つめていました。

渓流はまだ水が増えたまま、かにの親子は巣穴にまだ戻れません。
水が引くまでかにの親子はライオンの休んでいる草むらに隠れる事にしました。
天敵の狸が、いつもえさを探して森の中をうろうろしているからです。

ライオンはかにの親子がゆっくり休めるように出きるだけ動かない様にしていました。

すると、いつもかにの親子がいるこの場所をねらって、狸が現れました。

草むらにいるライオンに気付かずにかにの巣穴の近くにいって
かにの親子がいないか狙って探しています。


「ライオンさん、あの狸がいつも私達のことを狙っているの、だから隠れさせて!お願い!」


「いいよ、ここに隠れていなよ」


しかし、子がにが一匹、ライオンのいる草むらに隠れるのが遅れしまって、
向こう側の小さな草むらに隠れていますが、草むらから片方のはさみが
はみ出て見えています。ここままでは狸に見つかってしまいます。


「やはは、見つけたぞ~。子がにちゃん、出ておいで~」


小さいはさみが、とうとう狸に見つかってしまいました。
じりじりと子がにのいる草むらに近寄る狸。


「ガォーッ!」


ライオンは飛び出して狸を脅かしました。


「ぎゃー、ラ、ライオンだぁ!た、た、食べないで~!た、助けて~」


一目散に逃げていきました。
かにの親子はライオンに感謝しました。


「ライオンさん、ありがとう。おかげで子供が助かったわ」


「ライオンのおじちゃん、ありがとう!」


「おじちゃん、すごく強いんだね。あの怖い狸がいっぺんで逃げていっちゃった」


「ははは、僕の生まれたところでは全然強くなんかないんだよ」


「そんなことないとないよ、ライオンさん。こうやって私達を守ってくれたじゃないの」


「ありがとう!ライオンさん」


ライオンは、かにのその笑顔が見られるだけで今幸せでした。
すると、かには泡を一杯出してその泡の中で震えています。

ライオンには、そのかにの愛情表現を理解できませんでしたが、
ライオンもなんだか嬉しい気持になって、それをずっと眺めていました。
そして、ライオンも心が和んでいくのを感じたのでした

「誰の、なんの役に立てない」と思っていた自分が、誰かのためになったのですから。

……

しかし、その心のしあわせも長くは続きませんでした。
何日も餌になるものを口にしていない彼は、とうとう動けなくなってしまいました。
ライオンを心配したかには、しょっちゅうライオンの様子を見にきては声をかけました。


「ライオンさん、どうしたの?大丈夫なの?」


「心配しなくていいよ、かにさん。おなかが減って動けないだけだから…」


「私達が食べる水コケは食べられないし、ライオンさんの体の大きさに足らないし…どうすればいいの?」


「何もしなくてもいいよ、かにさん…」


そんなライオンとかにの言葉のやり取りもしらず、子がに達は、そんなライオンの体に登ったり、ひげが動くのを見てたりと無邪気に遊んでいました。

そして、ライオンはついに水も飲みに行けなくなってしまうほど、衰弱してしまいました。
かにさんは、その様子が目にとるようにわかって何もできない自分にもどかしさを感じていました。


「ライオンさん、しっかりして。狸が来たら守ってよ、私達食べられちゃうよ!」


「ゴメンね、かにさん、僕もう動けないんだ。多分、もうすぐお別れなんだ…」


ライオンは、時々意識が薄れていくの感じていました。
そして、眼をあけた時にはいつも心配そうなかにが目の前にいるのが見えました。
そして、かにに語りかけました。


「かにさん、次に生れ変るならライオンじゃなくて”かに”になって生れ変りたいな…」


「そうしたら、かにさんと一緒に過ごせるし、子がにちゃん達とも遊べるし…」


「何言ってるの!いなくなっちゃダメだよ!しっかりして!お願い!」


「ゴ…メン……ね…」


ライオンは目をつむって、もうあけられなくなってしまいました。
かにさんの声は聞こえますが、応えることもできなくなってしまいました。
どんどん、意識が遠のいていきます、そして、真っ暗な闇の中へ引き込まれていきます。

……

その真っ暗な闇の中を歩いていました。
体の重さを感じなくなったライオンは、ひたすら歩いていました。

彼の見ている方向のその遥か彼方に、ひとすじの光が見えてきました。
無意識のうちにその光に向かって走りだしました。

その光りの先にあったのは…<続く>
by key_bo | 2006-04-27 07:00 | はぐれたライオンの物語 第1巻